文/写真・石母田 秀隆(マザー企画事務所)
できるだけ少ないエネルギーで快適に住む
6・7月号と続くドイツ・オーストリア住宅研修レポート、今回は6月号で簡単に紹介した建築家クヌート・ギッター氏の設計思想を深く探ってみたい。
氏はパッシブハウスの設計を主とした建築家で、場合によりパッシブデザインが徹底できない場合はローエナジーハウスを設計していると6号ですでに紹介した。設計の範囲が広く、戸建住宅から集合住宅までを領域としているので、そのような対応にならざる得ないという。
ここでパッシブハウスについて簡単に考え方を述べると、住宅における温熱的環境の生成に自然エネルギーがもつポテンシャルを活用するということで、日射エネルギーや風などを利用する考え方である。その対極にアクティブデザインがあり、それは機械的・動力的な力で温熱を作る考え方である。
パッシブデザインを追求すると、太陽光や大陽熱、風力、地中熱などの積極的な利用、さらにその先に行くと環境共生型住宅があり、そこまで行くと屋根や壁面の緑化、雨水の利用、ビオトープなどと話が複雑になるのでそこまで追求しないことにする。エコ的な考え方に背くわけではないが“一般的に住宅を建築する多くのユーザー”の状況からである。
パッシブハウスには設計の原則がたくさんあるという。「南向きにある週熱のための窓」「断熱気密に留意して保温性を高める」「室内に蓄熱部位を設ける」「屁をつける」「通風を図る」等である。ギッター氏のレクチャーでその多くが話されたし、実際に見学させていただいた住宅は写真の通り、原理原則に則している。
しかし、氏のパッシブデザインはなにもかも自然エネルギーで充足させようとはしていないマイナス20℃にもなる気候条件なので他力に頼らざるを得ないからである。頼るエネルギー量を可能な限り少なくしようと設計に配慮した結果が、例えば相当隙間面積0.6 / 以下の気密性能である。ちなみに、この数値は換気を計画通り行うことができ、勝手な空気の出入りがなくなると 北海道のある研究家が実測を基に成果を発表している。
 住宅性能を数値で表せると暖冷房エネルギーの計算が容易となり、ギッター氏は設計提案のとき必ず計算結果を提示している。「ドイツでは建築家全部がそうするのですか?また住宅会社もそういうことをするのですか?」の質問に氏は「いやいや、そうではありません。でも私はやっていますよ」と返してくれながら「施主も関心を寄せない場合がありますが、省エネの必要性を説くのは使命ですから」と付け加えた。
住まいをトータルに考えること
筆者は取材経験を通して、比較的新しくしても寒い住宅を数多くみている。そのような家は陽が射し込んでいるにもかかわらず寒い。新築の住宅は建物自体が蓄熱していないから寒いという定説なら築2年目以降は暖かくなってよいはずだがやっぱり寒い。暖房していても、蓄熱されないことと逃げる熱の量が多いことが原因している。間取りや暖房の手法、配置にも問題があるが、住宅自体に効果的な日射取得とその熱の保持力がないから、冷たい床や廊下、冷える玄関、寒い脱衣室と、熱源(暖房器)から遠いところは本当に冷たく寒い。取材先の方が自ら「寒い」と言うから本当の話である。
全て平準に恒温にする必要はないかもしれないが、あの温度差は健康によろしくない。では暖房機を増やせばよいかということだが、対症療法はそうなるが光熱費の負担増につながる。それでも高齢者がいるケースでは、せめて脱衣室は冷えないように対策を講じた方がよいのではとアドバイスすることにしている。
肝心なことは、なによりもその住宅が冷える特性をもっているからであり、本来新築する際に解決しておくべき点であった。ギッター氏は建築家として住まいをトータルにに捉え、パッシブやローエナジーの住宅を設計し、それに適合するアクティブを添える思想を持っている。だから数値に置き換えて発注者に提案する。責任を伴うが計算基準が明確だから振れが少ないし、なにより実績が多いので説得力がある。
筆者も加入している“住まいと環境 東北フォーラム”(理事長 吉野博東北大学大学院教授)には“ツーベアホーム”も“くま設計”も加入している。このフォーラムでは住宅の温熱環境等に関して様々な調査研究成果や測定結果が示され、ギッター氏がレクチャーされた内容についても常々触れていたことだったので共通語として聞くことができた。
今回の訪独で嬉しかったのは、日本からの来客をお施主さんが快諾してくれたことである。お伺いした先の皆さまが住宅内の一部始終を見せてくれた。もちろんツーベアホーム独自で立案したツアー企画も住宅に絞ったポリシーのしっかりしたものだったので実現したのだが、公式の視察団でなければなかなかできなかったのではないかと心から感謝している。
梅雨時や夏によくわかる住宅性能
さて、季節は夏というのに「暖房」の話が中心となってしまったが、断熱気密性の高い住宅は実は梅雨時や夏の暑い盛りに十分にその効果を堪能できる。逆説的と思われるかもしれないが、ツーベアホームにおける筆者の体験を2例ほど紹介させていただく。
はじめの例は、3年前の盛夏、外気温が1日の中で最も上昇する午後の時間帯に、引渡し直前の住宅に上着着用のスーツ姿で取材入室した。カメラマン同行で約2時間の撮影時間だったが上着を着たまま取材をした。
別に我慢したわけではなかったが、外気温が33℃もあるのに室内はなんとも爽やかだったから脱がないで済んだ。同行のカメラマンにも撮影を終えたとき「暑くない室内」に感嘆していた。現場監督が朝にエアコンの運転確認をし、午前10時に運転を止め、窓を閉めた状態にしていたという。まだ生活していない住宅なので生活熱が発生しないから実験棟さながらの状態だったが、気密性が高いため暑い外気が勝手に出入りせず、断熱性が高いから冷えた空気が熱くならず、爽やかな室内環境が持続していたのだった。
もう一例はつい先頃の7月19日、鳴瀬町の完成内覧会の住宅での体験。曇天で湿度が90%近くの蒸し暑い日で、やはり午後の暑い時間帯に上着着用で入室したが室内は暑くない。
私だけでなく来場のお客さんのほとんどが「アラッ、涼しい」という。延床面積58坪強の住宅には200Vのヒートポンプ式エアコンがたった2台だけ。「いま、エアコンは付けているのですか」と、私も来場者も聞いていたが、午前10時のオープン時にエアコンは止めていたという。ツーベアホームの担当者も全員上着着用だったが、扇子や団扇をパタパタと使うこともない。そのうち南面の引き違い窓が閉めたまま、ドレーキップ窓と天窓だけを開けた状態にしたら気流が生じ、なんとも肌に心地よさを感じた。これには来場者の皆さんも敏感に反応し「涼しい」が連発された。「ウチとは違うわね~」とおしゃっる人もいたから歴然とした差をお感じになったと思われる。
このドレーキップ窓と天窓がつくり出す風の通りがパッシブ活用のひとつの典型で、自然エネルギーだけで涼を住む人に届ける。ツーベアホームがドレーキップ窓を標準採用したのは、いまの季節のような暑い時期に、仮にちょっと外出でも安心して窓を開放したままで室内を爽やか状態に維持しておける、ツーベアホームには「夏も窓を開けよう」が設計の根底にある。もちろん、交通騒音や隣家との関係などで窓を開放できない場合もあるが、そうしたときにはできる限り少ないエネルギーで涼を実現するローエナジーハウス的設計を考慮している。
日本における家づくりには、伝統的に「夏を旨とすべし」とした兼好法師の思想が受け継がれてきたが、新しい形で家と人との共存を考えたパッシブデザインが、ご紹介した2例のように現実のものとなっている。ギッター氏に案内いただいたパッシブハウスも写真のようにドレーキップ窓が装備されていた。窓外に広がるダイナミックさと繊細さを兼ね備えた田園風景が思い出された。
閑話休題
筆者のオフィスでは絶えずBGMを流しているが、今回の住宅研修の原稿を書くときは必ず「ドイツ民話集」(ヴェルニゲローデ少年少女合唱団)とザルツブルグを舞台にしたミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」のサウンドトラック盤を流 している。先日はこの映画のビデオを観ながら1ヶ月半前に行った彼の地に思いを寄せた。映画の最後にトラップファミリーのアルプス越えのシーンが登場するが「ナポレオンのアルプス越えは分かるけど、小さな子供達が高峰を越えられるの?」とあのとき、ガイドさんに聞いたら「休日は家族連れで混むんですよ、アルプスは」とのこと。エンディングに流れるジュリー・アンドリュースが歌う「すべての山に登れ」は勇気を与えてくれる佳曲だ。今度、ツーベアホームに頼んで「サウンド・オブ~」のBGMを完成内覧会で流していただこう。ご来場の方の元気と勇気が一層増しますように。
|